非決定性の計算を取り上げます。 非決定性の計算を行うコンピュータは存在しません。 しかし、非決定性の計算モデルを考えると、実存する多くの問題の複雑さを明 らかにすることができ、有用です。
次の状態が一意に定まらない計算を 非決定性 と言います。
ここでは、最終的な答として、 yes か no を出力する計算を考えます。
非決定性の計算を通常のプログラミング言語にさせるためには、通常
入力 n が合成数かどうかを判定するには……
巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem)は次の通りです。
予算内で全ての都市を回ることができるか?
これを解く非決定性のプログラムは次の通りです。
ここでは、オートマトン理論の結果を復習し、非決定性の計算を考える有用性 について考えます。
Turing 機械をすでに定義している立場では、オートマトンとは、 書き込み不可で一方向にしかヘッドが動かないテープが入力用に用意されてい るだけで、他にテープを使用できない Turing 機械であると定義できます。 入力によって、状態を変えることはできますが、テープに値を保存することは 出来ません。 従って、次のような構文でプログラムを書くことになります。
label1: if 入力='文字' then goto label2
数学的に定義すると Turing 機械と同様に (Q, Σ, δ, q0, F) と 5 つの組みになりますが、 δ関数は次のようになります。
このように Turing 機械を制限すると、どれくらい能力が落ちるのでしょうか? これに関しては、オートマトンで受理できる言語と、正規文法で定義できる言 語が一致すると言う結果が分かっています。
正規文法とは次のような規則で定める文法のことです。
例えば、自然数を考えた場合、一番大きい位の桁は 1 から 9 で、二番目以降 の桁は 0 から 9 までとなるので、次のようになります。
正規文法は、整数、浮動小数点、名前など、プログラミング言語で使用するよ うな文字の固まりを良く表現できます。 従って、これらをプログラミング言語で使用できるよう、 C 言語では lexx という「オートマトンの定義」から「C 言語のプログラム」へ変換するコンパ イラコンパイラがあります。 また、Awk や Perl 言語のように標準的に組み込んでいるものもあります。
正規文法とオートマトンの関係を調べましょう。
オートマトンが正規文法で表せることを示します。 証明は参考文献岩田茂樹/笠井琢美「有限オートマトン入門」森北出版 (1986) を参考にしました。
オートマトンが与えられた時、それから正規文法を一つ作る作り方を与えます。 まず、受理状態へ遷移できない状態をすべて取り除きます。 また、新たに一つ別の受理状態を加え、現存のすべての受理状態に対して、そ の状態は受理ではなくし、そこからλ(空の文字列)の入力で新しい受理状態に 遷移するように修正します。 この修正により、オートマトンの入力としてλを許してしまいますが、受理状 態はただ一つのオートマトンにします。 そして、次のルールを適応しながら、オートマトンを変形していきます。 もともとのオートマトンは文字一つで状態遷移を行いましたが、このルールを 適応することで、入力を正規文法に拡張して、状態を減らしていきます。 最終的に初期状態から唯一の受理状態まで、一つの正規文法により遷移するよ うに変形できたら、それが求めるオートマトンと等価な正規文法になります。
このようにすると、平行辺とループを取り除けば必ず一つ状態を削除できます ので、最終的に目的の初期状態から受理状態への一本の辺だけになるまで変形 を繰り返すことができます。
任意の正規文法が非決定性オートマトンで表せることを示します。 非決定性のオートマトンとして、「入力が来なくても複数の状態に非決定的に 遷移できる」ように、入力文字λを導入します。 これが割り当てられた辺には、入力が来なくても非決定的に遷移できるとしま す。 さて、正規文法が与えられた時、次のようにして非決定性オートマトンで表し ます。r を受理する非決定性オートマトンを Mr、s を受理する非決定性オートマトンを Ms とします。
ラベル(状態)の巾集合を考えます。そして、その要素(つまりラベルの全ての 組合せ)に対して、状態の遷移を考えます。 状態 a は 0 の入力で状態 b へ、 状態 c は 0 の入力で状態 d へ遷移する時、 状態 { a,c} は 0 の入力で状態 {b,d }へ推移すると考えます。 そして、これらのラベルの組合せを新しいラベルと思って、オートマトンを構 成すると、次の状態は一意に定まります。 そして、受理するラベルを含むラベルは受理を意味するとします。 このようにすると、もしもとのオートマトンでひとつでも受理に向かう計算が 存在する時、新しく作ったオートマトンでは受理状態に入ることになります。
次回は NP 完全問題についてお話します。